2009/01/16

Yahoo! JAPAN とGoogle、実際の検索シェア

ネットレイティングス社がニュースレター「Nielsen Online REPORTER」の1月15日号で「日本の検索サイトの利用状況」をレポートしている。このレポートが、昨年12月に報じられたグーグル日本法人による会見時の
“Googleのシェアは41%で、44%のYahoo!との差が縮まってきた。”
Yahoo!の背中見えた? グーグル日本法人が「よい年だった」(@IT)
を実質的に訂正するものだ、ということをどのくらいの人が認識しているだろうか。ニュースレターによれば、2008年10月における「検索結果ページ表示数」は以下のとおり。



「Yahoo!が提供する検索サービスが、家庭と職場の合算で35億3600万ページビュー、Googleが提供する検索サービスが同25億6800万ページビュー」(同ニュースレター)となっている。10位以下の検索サイトでのページビュー数が省略されているため、この9サイトの合算で計算すると、それぞれの検索結果ページ表示回数の割合はYahoo! JAPAN が52.5%、Google が38.1%となる(10位以下を考慮すると、実際にはそれぞれがこの数字よりわずかに下がる計算となる)。

それでは昨年12月の会見で使用された44%対41%という数字はどこから出てきたのだろうか。実はネットレイティングス社が提供するインターネット利用動向調査(いわゆる「ネット視聴率」)の「NetView」において
  • 「サーチ」サブカテゴリを
  • 「家庭+職場」で
表示させると、確かにこの比率のもととなる数字が出てくる。実数でいうと2008年10月の数字でYahoo! JAPAN が35億3,600万ページビュー、Google が29億7,200万ページビュー。ただし、同社自身がニュースレターで言及しているとおり、この「サーチ」サブカテゴリの集計方法には大きな問題があって、
検索サイト(Google、Ask.jp、Baiduなど)においては各サイトのトップページの利用状況(利用者数、ページビューなど)も含まれてレポートされている一方、ポータルサイト(Yahoo!、MSN/Windows Liveなど)においては各サイトのトップページの利用状況(利用者数、ページビューなど)が含まれていない
(同ニュースレターより)
確かにYahoo! JAPAN のトップページにアクセスしたユーザーがすべて検索目的かというとそうではなく、むしろブラウザのホームページに設定されているため毎回自動的に表示されるだとか、メールやオークションへアクセスするためだとか、検索以外の目的で開かれている可能性が高そうだ。

よってこのサブカテゴリにおいてポータルのトップページを除外するのは合理的だが、一方で検索サイトのトップページを含めてしまっているのは片手落ちだろう。ましてGoogle 日本のトップページがデザインを変更し、グローバルと異なった独自仕様となっている現在、Google トップページへのアクセスが検索目的とも言い切れなくなってきているのではないか。

「職場」の数字を使う際の注意点

もう1点言及しておきたいのは、昨年10月のサービスリニューアルにより提供されるようになった「家庭+職場」のデータのうち、「職場」部分がどのように集計されているか、という点だ。ご存知のとおり、同社を含む多くのデータ提供会社は、インターネットユーザーのPC にプログラムをインストールし、データを取得・集計している。

とすれば、初歩的な疑問として「日本の職場で自由にプログラムをインストールできる環境はどの程度の割合なのか? それは日本における職場でのインターネット利用を代表しうるのか?」という質問が浮かぶ。例えば金融系の企業がこういったツールのインストールを認めるかどうか、想像してみるとよい。一定以上のセキュリティ意識を持つ企業は「職場」のパネルには含まれていない、と解すべきだろう。

また「家庭」が少ないながら万単位のパネルを確保しているのに対し、「職場」については約800にとどまっている点もおそらく認知されていないであろう。統計的な処理により信頼性は担保されているものと思うが、パネル数が少なく、かつセキュリティ意識の高い企業が含まれ得ないパネル構成となっていることは理解しておくべきかと思われる。

#そうはいうものの、家庭よりも職場においてGoogle がより広く利用されているだろう、というのは体感値として納得のいくものではある。

グーグル日本法人が提示した「サーチ全体のシェア」の数字が衝撃的だったのは、
  • そもそも「サーチ」サブカテゴリの算出方法が合理的でなかった
  • これまで「家庭からのアクセス」の数字が広く認知されていたところ、グーグルの利用比率が高く出る「家庭+職場」のデータを用いた
ことに起因している。

どういった数字であれ、それがどのように取得され、どのような傾向を持つ可能性があるか、理解したうえで使いこなすことが重要である。企業が発表に用いたから、ニュースサイトに書いてあったから、と鵜呑みにしていては進歩はない。

#本エントリーの本筋ではないのだが、Baidu 検索の結果ページ表示回数が4,738万回というのは多いのか少ないのか。うち何割が動画/画像検索なのか、という点も含めてたいへん興味深い。

2009/01/12

SEM酒場について

検索エンジンマーケティング(SEM)まわりをメインに、インターネットやマーケティングなどに関するあれこれを、気が向いた時につづるブログ。当然ながら所属する企業の見解を示すものではなく、あくまで個人としての意見表明である。また基本的には誰でも参照可能な公開情報をもとにしており、勤務を通じて知り得た非公開情報などは利用していない(はず)。

最近はSEO やスパム関連の話が増え、悪辣なサービスに対して苦言を呈することもあるが、必ずしも本意ではない。「SEM酒場」のブログ名が示すとおり、本来は酒場での話のネタになるような、役には立たないが微苦笑を誘われる話題こそ取り上げたいと考えている。

副題の「ぼくは検索エンジンとブラウザが好き」は植草甚一氏の書名のもじり。インターネットへの入り口であるブラウザと、道しるべとしての検索エンジン。つまりインターネットを利用する際にかかせないふたつのものに焦点をあて、自分なりにインターネットの面白さと今後の方向性に迫りたい、ということなのだろう、今にして思えば。

筆者(kuroyagi)について

ここでは実名等は開示しない。調べればすぐ分かるので興味のある方はそれこそ検索していただきたい。ニュース系Web サイトの企画・運営を経て2003年1月からSEM の領域に関わり、主に大手企業向けのSEO コンサルティング(1案件につき半年で数百万円規模)や自社のマーケティング/広報を担当(→在職中に上場)。現在は広告配信プラットフォームに所属し、マーケティングコミュニケーション/広報を担当している。

*この項については随時更新する可能性あり。